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「左脳からの大転換」
藤本 直樹(大手IT企業人事部マネージャー)

思考偏重、成果第一主義。部下を足蹴に上司を手玉に取る
盤石な左脳の砦の奥にあった、人を信じる素直な気持ち
人の幸せを第一に、会社の組織に変革を起こす

仕事は高揚感を得るためのもの
人をコントロールし成果を上げる

「デキる」ビジネスマン。それが藤本直樹さん(以下、直さん)の第一印象だった。長身、色白でメガネ。そしてクールな顔立ちと無駄のない仕草。いかにも頭がキレ、仕事ができそうなオーラが漂っている。

仕事は自分の高揚感を得るため。部下はその駒でしかない。

「俺がいないとだめだろう。俺が全部解決してやる。部下も僕の手となり足となり動きなさい。ある程度脳を持ってもいいけど」

直属の上司から「藤本は優秀なのは分かるけど、俺や担当役員を手の上にのせて、コントロールしてやろうっていうのがすごい伝わるんだよね」と言われても、素知らぬ顔。まさに恐いものなし。

感情なんてビジネスにはまったく不必要なもの。ビジネスマンはいかに感情を殺して、成果を追求できるか。相手の感情は成果を出すための手段に過ぎない。辛そうな部下を見たらその感情を読み取り、成果を出せる状態へと誘導していく。人の幸せは、成果の前に犠牲になってしかるべき。

成果を出すためにはシミュレーションが欠かせない。感情を抑圧して、思考で状況を分析し、解決策を論理的にシミュレーションする。それがいつもの定石。一度だって疑ったことはない。

直さんが語ったかつての仕事観。これはビジネス社会ではごく一般的なことなのかもしれない。

感じた本能的な心地よさ
軟化していった態度

このガチガチに固まった左脳は、どのように緩んでいったのだろう。

最初のきっかけは、会社の常務に「面白いやつ紹介したるわ」と言われてCCCパートナーの一人である由佐さんに出会ったことだ。会社の組織が抱えている課題や施策を1時間話し続けた。「この人すごいわ」と思った直さんは、ファシリテーションのための講座があると誘われ、参加することにした。いわゆる一般的なミーティングを効率的に進めるようなスキルが学べると期待したからだ。

しかし、期待は大きく裏切られる。参加したその場で、待てど暮らせど具体的なスキルの話しは一向に始まらない。やらされることは、いまの自分の気持ちを小さなグループで話すようなことばかり。参加した初日は、結局それで終わってしまった。

「終わった後、一緒に来ていたメンバーと『本当に怪しかったよねー』って。でも怪しかったけれど、なんか本能的に心地よかった」

強い抵抗感はあるが、どこか居心地の良さを感じる。CCCに足を踏み入れた時の感想だった。

なんとなく心に残るものを感じた直さんは、その後CCL[1]というプログラムの合宿に参加した。その中で、参加者同士が自分の今までの人生を語り合う時間があった。人事畑が長い直さんにとって、なんどもチームビルディングのために活用し、話し慣れもしていた。

「僕はストーリーをドラマチックに話せる訳ですよ。分かりやすく。でも『なんか響かないのよね』って言われた。響かないってなによと。人のストーリーなんだから放っといてよって思った」

また、聞き手が話し手の求めていることをフィードバックするというワークがあった。話し終わった後、「直さんは、繋がりを求めているんじゃないかって感じました」と言われた。

「はぁ? 繋がり? そんなの全然求めてないよ」

口ではそう言っていたが、心の中に揺れ動くものを感じていた。

「いまだに動画でその状況は思い出されるんですよ。繋がりって言われた時に、左脳では、求めていないと言っているんですけど、右脳ではそうだよな、お前はそれが欲しかったんだよなって、ジーンと来ていた」。

牙城の一角が、少しだけほころび始めていた。

 


[1] CCCが提供しているアクションラーニング形式の内省型リーダーシッププログラム。

蘇る母への後悔の念
変わっていく自分の在り方

ファシリテーション講座の基礎編を経て、応用編ディープスキルに参加した直さんは、一人ひとりの内面を深く観ていく時間で、10年前に亡くなった母のことをみんなに話した。

自身は母から愛情をたくさん受け育ったが、母は祖母から里子に出されるなど悲しい思いをしていた。直さんは、小さい頃から祖母への恨み節を聞かされていた。

合宿形式でのこの講座には子どもを連れてきた参加者が何人かいた。講義中に子どもたちは騒ぎだしたが、ファシリテーターだった由佐さんは頭ごなしに怒らなかった。代わりに、子どもたちの「遊びたい」という気持ちを丁寧に聴き、共感した上で「今私たちもここで話しがしたいから、もう少し静かにしていてくれる?」とお願いした。すると子どもたちは静かになった。その光景を見ていた直さんは感動した。こういう風に相手の感情を汲み取って関わるやり方があるのか。意識は自然と自分の母に向いた。自分は母の気持ちをちゃんと汲み取れていただろうか。いつも「こんな風に考えた方が良いよ」と、母の気持ちに解決策で応えていたのではないか。「直は本質的なことを言うね」と言ってくれたけれど、母は最後まで祖母のことを恨み続けていた。

感情を抑え、思考で解決策を考える。有用だと信じて疑わなかったやり方では、母の問題を解決してあげることができなかったのだと気付いた。

人の感情を、自分の感情で受け止める。それが人と向き合い、人と繋がるということなのか。

この日から、直さんの在り方は、指示することから相手の感情に耳を澄ませることへと少しずつ変化していった。そうした態度が部下に安心感を与え、次第に「藤本さんだから言えるんです」と、普通なら上司には相談しないような自分の評価に対する反論や転職の相談をされるようになっていった。

 

正義感が強かった少年時代
反転した信念が生みだしたもの

直さんは「北斗の拳」などの勧善懲悪系が大好きな子どもだった。

「常に公平だったり公正を意識していた。髪の毛ひっぱったりするやつがいたら、その日の終わりの会で僕は必ず裁判官のように、なになに君がいじめてました。それは良くないと思いますって言ってた」

直さんは、クラスに一人はいるような正義感たっぷりの少年だった。

また、親に叱られて泣いている弟を見て、可哀想になって一緒に泣くなど多感な面もあったと言う。

正義感が強く多感な少年。正義感は、多感さに比べて後天的に身に付いた印象を受ける。では、なぜ正義感が身に付いたのか。そこには母からの教えがあったと言う。

母は物わかりの良かった小学生の直さんに、人にお金を貸したら返ってこないと思いなさい、といった訓示や、祖父が一億円ほど詐欺で騙された話しなどをした。そういった話しが「大人の社会は危ない」という認識を直さんの頭に刻み込み、悪を正すという正義感を生みだしていた。

ディープスキルの後のプロセスデザイン[2]は、直さんの中にあるこの心の働きをさらに鮮明に浮かび上がらせるものだった。

「大人の社会は危ない」という認識は「人は騙す存在だ」という人間観をつくり、それによって、騙されないように常に警戒心を持って人と接するという基本姿勢が生まれた。そして騙されまいと、相手の考えや反応を予測する。その結果としてシミュレーションが卓越していく。成果を上げるために欠かせないと思っていたシミュレーションの奥底には、実は「成果」を笠に着た、人への恐怖心があったのだ。

無意識に信じ込んでいた「人は危ない」という信条。でも本当に心の奥底で信じているのは「人は美しい」という真実ではないかと由佐さんに言われ、直さんははっとする。本人すらも、なぜそこまで腹落ちしたのか分からない納得感が身体中に広がった。「人は美しい」、これが自分の真実なのだと信念が転じた時に、シミュレーションはもう作動しなくなり、部下への関わり方も「働いている本人が幸せか」という視点で考えられるようになっていた。かつては、部下の幸せは仕事の成果のために犠牲になって当然だと考えていたにも関わらず。

直さんは自分の変化を会議の時、特に感じると言う。

「ミーティングとかで社員がいがみ合ったりしていると、胸がぎゅんとしちゃう。悲しみで。それが辛い」

崩れた砦から、多感だった少年なおが戻ってきた。

 


[2] 「応用編 プロセスデザイン」コースのこと(2015年からはプロコースに組み込まれる)。応用編プロセスデザインでは、人生の前半における人生体験を捉え直し、それは何を世界にもたらすために味わった苦渋や違和感なのかを探求し、その意味を捉え直す。自分が本当に世界に創りだしたい根本エネルギーとなる真実(エッセンス)を見いだす。

同じ会社で新たな挑戦
人の幸せを起点に

変化を経た直さんは、いまどのようなことを考えているのだろうか。

直さんは、ちょうどCCLの合宿があった3月に今の会社を辞めようと思っていた。顧客を大事にしていないと思ったからだ。その後状況は変わり会社に居続けるという選択をしたが、いま改めてこの会社が面白い場所であると感じている。

「一時辞めようと思っていましたけど、いいフィールドだなと思って。オーナー企業がいて、みんななにかしらの恐怖を持ってて、これを変えれたら結構どこでもいけるかなと思ったり。すごいやりがいがある。そういう発想から動くと、色んな人が色んなサポートをしてくれる」

現在、次世代リーダー養成のための研修プログラムの企画に着手している。社内の若手を選抜し、将来の役員候補を育てるプログラムだ。自分自身がまず学んだことを体現するところから、と前置きをした上で、この1年で学んだことを社内に広めていこうとしている。

「自分がどうのこうのじゃなくて。みんながハッピーなのかどうなのか。そこですかね。僕ができる範囲も限られている。でもその中でやっていくしかない。同心円をどう広げていくかがチャレンジですよね。」

そこにはぶれない、腹落ちした信念がある。

インタビュー中、僕はずっと緊張していた。それは結局最期まで解けることはなかった。インタビューが終わり、僕らは一緒に写真を撮ることになった。フォトグラファーの方がカメラを構えた時、直さんが急にそわそわしながら、横で見ていたCCCのスタッフも一緒に写ろうと声をかけた。

「一人入っていないと寂しい感じになっちゃうんだよね。」

そのままの藤本直樹さんに繋がれた気がした瞬間だった。

(ライター:渡辺嶺也)

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