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意図からつながるエネルギーで「仲間と喜びあえる会社」をつくる 安藤英紀(精密機器メーカー役員)

 

――「怒り」の扱いかたが分からない――

良い/悪い、という物差しがある。そこから、良い出来事/悪い出来事、良い結果/悪い結果、良い自分/悪い自分…というように、二元論の物差しが無数に生まれていく。世の中の多くの事象が、この二つに規定されている。「光」と「闇」。光はいいけれど、闇はできるだけ見たくない…そう思う人は多いのではないだろうか。

しかし、安藤英紀さんは、自分の中の「光」と「闇」について、異なる考えをもっている。

「もともと、自分の中の光も闇も、振り切れるくらいに持っていたい、っていう思いがありました。それがあって、CCCの講座を受講しようと思ったんです」

受講の意図について、安藤さんはそう話す。自分のパワーを最大限に発揮したい、という強い願いのにじむ言葉だ。

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安藤さんは、自身の闇の部分を「怒りで相手を攻撃すること」だと言う。

「以前の自分の怒りのエネルギーは、相手への攻撃に出てしまっていたんです。ボロボロになるまで相手を攻撃してしまう。相手を攻撃すれば、結局自分も相手も傷つくから、このやり方が違うのは分かる。でもこのエネルギー自体を抑えたくはない、どうしたらいい?と思ってました」

CCCの講座では、自分のニーズのありかを示すサインとして、感情を丁寧に見ていく。受講を通して「怒りの扱いかた」が見つかるかもしれない、という期待があった、と安藤さんは言う。

 

――怒りは「扱う」ものじゃない――

しかし、そんな安藤さんの思いは、プロコースの受講中に変化していく。きっかけは、プロコースのファシリテーター、インスの言葉だった。自分の中の怒りを扱いたい、という安藤さんに対してインスから返ってきたのは、「『扱う』っていう言葉がもう、違うんじゃないかな」という、予想外の言葉だった。

「怒り自体に良い悪いはないんだよ、って言われました。怒りを扱いたいというのは、『怒りは悪いものだからいい風になるようにしていきたい』というのと一緒じゃない?って」

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怒りは自分の中に自然にあるもの。良い悪いではない。その言葉が、安藤さんの中に残った。

変化が起きた。それまでは怒りを感じると「それをどう表現するか(しないか)」というところにばかり目が行っていた。しかし、「いったい自分は何に怒っているのか」というところに目が行くようになった。

「今、自分が怒ってる、ということをまず感じきろうと思いました。そして、そこには何がある?っていう風に見ていくようになった。そうしたら、その怒りが何に反応してのものなのかに気づく。さらに見ていくと、その下にある何かしらの『恐れ』に気づく。そこから、自分の抱え込んでいた信念や、それに関連する体験も思い出したんです」

 

――「みんなが助かるならそれでいい」――

安藤さんにとって忘れられない、中学校時代の記憶がある。

当時、安藤さんが通っていた中学校では校内暴力が横行していた。ボス格の生徒やその仲間に呼び出されては、トイレに連れ込まれて殴られる。安藤さんだけではなく、何人もの仲間が同じ目にあっていた。恐怖と諦めに覆われた毎日を、安藤さんはどうしても終わりにしたかった。

ある日、安藤さんは、暴力を受けている者同士が結束することを思いつく。一人では立ち向かえなくても、みんな一緒だったら止められるかもしれない。

「それで、やられてる仲間同士で相談したんです。今度誰かが呼ばれたら、絶対止めよう、って」

しかし、なかなかうまくはいかなかった。誰かが呼び出される。止めなくては、と思うものの、怖くて声が出せない。殴られて戻って来た仲間に「止められなくてごめん」と謝る。そんな日々が続いた。

「3か月くらいそんなことが続いて…結局、はじめて『やめろよ!』と言ったのが自分だった。もうすごい勇気振り絞って、怖い…いや怖くない!って(笑)。でも、そしたら流れが変わったんです」

あんなに吹き荒れてた暴力の嵐が、ぴたりとやんだ。暴力を受けていた仲間だけでなく、他のクラスメイトからも感謝された。クラスの結束が目に見えて高まり、それから卒業まで「それまでが嘘みたいに、むっちゃ面白いクラスになった」。

この体験は、安藤さんに様々なものをもたらした。それは、仲間を助けたことへの誇りであり、安心できるクラスを取り戻せた喜びであり、その裏返しとして芽生えた「何があっても仲間を助けなくてはならない」という信念だった。

「そこから、友達思いの人間にはなってったんだけど、逆にいうと、自己犠牲もはたらくようになっていった」と、安藤さんは言う。人が苦しんでいるのを見るのが耐えられない。自分が傷つくかもしれないと思っても、首を突っ込んでいく。

「自分の感情には、そうとう無自覚だったと思います。矢面に立つのは怖いし、自分も傷つくんです。『でも、それでみんなが助かるならそれでいい』って、自分の恐れとか痛みをねじふせて、怒りを駆り立てて、正義のヒーローみたいに飛び込んでいく。それを、大人になってもずーっと繰り返していたことに気づきました」

自分の恐れに目をつぶり、「怒り」のエネルギーを起爆剤にして飛び込んでいく。安藤さんはそのことを「特攻」という言葉で表現する。

「今思うと、相手のために、というよりは、そうすることで自分の存在価値を証明しようとしていたのかもしれません。存在価値がなくなったら、人が離れていって孤独になってしまうとも思ってた。だから、そこからはなかなか降りられなかったんだと思います」

 

――「無理しないで、そのままいて」――

その「恐れ」と向き合うチャンスが、プロコース最後の合宿で訪れた。

合宿の最終日、仲間の前で「Who am I」(自分は何者として生きるか)を語る場面があった。

「最初はむっちゃ震えてたんです。いつものパターンだったら『怖くない!飛び込んでなんぼじゃ!!』って目をつぶって特攻してたかもしれない(笑)。でもみいちゃんがその時、『無理しないで』って言ったんです。『無理しないで、そのままその怖さを感じ続けて』って」

恐れは打ち勝つものではない。ただ感じるだけでいい…。安藤さんはそのまま席につき、自分の恐れと向き合った。漠然と広がる恐怖の感覚を、ひたすら感じ続けた。やがて、心臓が波打つほどだった恐れの感覚が、すーっとひいていくのが感じられた。

「で、恐れが抜けたら、こんどは武者震いがきたんです」

その武者震いはどんな種類のものだったのか、聞いてみた。

「そのまんまでは思い出せないけど…今言うなら、『生きる』ということなんじゃないかな」

そして、再び語られた「Who am I」。安藤さんから、生きることへの意欲とつながった、力強く静かな言葉が流れ出た。

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――「あるものを伝えたい」源からのエネルギー――

プロコースの修了後、会社で起きた出来事について聞かせてもらった。

安藤さんは、「人を大切にする組織をつくりたい」との思いから、組織開発の専従として仕事をしたい、と会社に申し出た。認を得て動き出したが、人員配置の問題がクリアできず、社長から「やはり、営業の仕事と兼務でやってほしい」と言われてしまう。

「会社に『人を大切にする』流れを創っていきたくて。それが今の会社には必要だし、そのために専従で組織開発をやりたいってずーっと話してきていました。それなのに何を今更、と。絶対戻りません、と社長と激しく言い合いになりました」

後日、社長と時間を取って話すことになった。

「社長が来るのを待つ間、ずーっと、あれも言おうこれも言おう、って戦闘態勢に入ってました。社長来たらこれこれこう言って言い負かしたろ、って」

しかし、安藤さんは、これは怒りを駆り立てて突っ込んでいく、例のパターンではないか?と気づいた。

「何のためにあれこれ考えてるんだ?って立ち止まった。やりたいのは勝ち負けの話じゃない。ニーズはなんだ?と見にいった」

「今あることを心から伝えたい」出てきたのは、そんな言葉だった。

しばらくして、社長が部屋に入ってきた。

「最近、お寺の掲示板に貼ってある言葉にはまってて、と、社長が携帯で撮ったその写真を見せながら話し出したんです」

その中に、安藤さんが創りたいと思っていた「人を大切にする組織」に関連する言葉があった。

「社長がそれを見ながら、『自分もこういうことが大事だと思ってる。人を大切にする、ってことを、会社でやっていきたいんだ』って言うんです。…自分の思いと、完全にシンクロしていた」

安藤さんは、社長と思いが一致していたことに大きく心を動かされながら、自らの率直な思いを語った。これまで自分は、数字だけを追うような仕事もしてきた。それで結果も出したし、これからも出すことはできるかもしれない。でもそのやり方では、働き手がどんどん疲弊していく。自分は、社員が疲弊しないで働ける、働き手を大切にする組織をつくっていきたい。だから、それをやらせてほしい・・・。話しながら、ぼろぼろ泣いていた。

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安藤さんには、「あれだけ話したのに、社長は分かってくれていなかった」という絶望があったのだろう。そして一度はその絶望にふたをし、いつもの攻撃パターンでねじきろうとした。しかし、安藤さんが「今あることを心から伝えよう」と意図し、そこから語ったとき、それまでとは違うエネルギーが、場を動かした。

社長も、代替わりしてからの辛さや、安藤さんに対して抱いていた複雑な心情を話した。お互いにこれまで話してこなかったことを語り合い、「ここから一緒にやっていこう」と二人で固く約束した。

近ごろ、安藤さんの会社では企業理念を刷新した。その話し合いには、管理職以外の社員もメンバーとして参加し、ひとりひとりが思いを出し合いながら、話し合いを進めていった。

「ほしいアウトカムからみんなで決めたんです。そのときは、『いいのできたねー!』とか『これでみんな一丸になってやってこうー!』って思えるといいね、っていうのが出てきた。それをもとにみんなで話し合ったら、最終的に、ほんとに腹落ちした、みんなのための企業理念ができたんです」

インタビューの最後、「今、源から生きている感覚がありますか?」との質問に「うん、ある」と安藤さんは笑って即答した。
「どんな現実を創りたいかを握って、そこから行動するだけでいい」と安藤さんは言う。「怒り」からではなく、心からの意図とつながることで生まれるエネルギーが、今、安藤さんの毎日を形づくっている。

聞き手:八田吏(プロコース修了生)