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【第三の道】「自分の給料は自分で決める!」自由な選択と主体性から生まれる共創の経営 武井浩三(ホラクラシー経営者) x 村中剛志

 

不動産業界向けのWEBソリューションを提供しているダイヤモンドメディア株式会社。「給与をみんなで決める」「社長、役員を選挙で決める」など、これまでの企業の常識を超えたその経営手法が注目を集めている。従来のヒエラルキー型組織とは異なり、意思決定の機能や権限を分散させたフラットな組織を基盤とした経営は、「ホラクラシー組織(経営)」とも呼ばれている。日本初のホラクラシー型企業を創ることになった経緯や、経営の具体的な内容について、代表の武井浩三氏をお迎えしてお話を伺った。

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自信満々だった少年時代

「小さい頃から何でも器用にこなす子どもだった」という武井氏。学校の成績もよく、運動もよくできる。ガチガチの優等生かと思えば、女の子にモテたい一心でギターに熱中し、バンドを組み、時には不良のようなふるまいもする…そういった幅の広さをもつ少年だった。
「何をやっても思い通りにできると思っていました。ほんとに自信満々で、…嫌な奴ですよね(笑)」
やりたいことはみんなやってみよう

高校卒業後は音楽の勉強のためにアメリカの大学へ進学。音楽一筋だった武井氏だが、出会った友人に影響され、起業を志すことになる。
「やたら金を持っている奴で、何やってるの?と聞いたら会社をいくつも経営していたんです。ただやるだけだよ、お前もやったら?と言われて、おおそうだな、と。」
ブラックミュージックを愛するアウトローだった武井氏は、「サラリーマンなんて終わってる」と思う一方で、稼ぐためにはどこかに就職しなくてはならないというジレンマも抱えていた。しかし、自分が得意なことで稼いでいる友人の姿に、大きな刺激を受けた。
「自分が得意なことを他の人の代わりにやってあげて、お金をもらう。仕事って、なんて自然な営みなんだろう、と。日本に帰ったら、やりたいことを全部やろうと思ったんです。」
帰国後、高校時代の友人を誘って、ファッション系の情報メディアを扱う事業を立ち上げた。元々ファッションへの関心は高かった。目算はあった。しかし実際、事業は驚くほどうまくいかなかった。

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初めての挫折。価値の提供できない自分

親や友人に借金をしてつくった1000万円が、みるみる減っていった。自分は何をやっても上手く行くと思っていたが、ビジネスはまったく違った。
「俺は世の中に何も価値を提供できない人間だ、と自覚せざるを得なかったですね。」
かつて見下していたサラリーマンのことを思った。彼らは専門的なスキルで社会に貢献している。自分はそんな彼らを否定していた…。結局その事業を1000万円で売却し、初めての会社は1年で解散することになる。
「みんなが幸せになる会社」をつくりたい

借金は返してゼロに戻った。会社も解散した。気にかかるのは、大学や大手企業をやめてまで会社に参画してくれた仲間のことだった。
「こいつらの人生むちゃくちゃにしたな、と思ったら本当に情けなくて。」
仕事をするとはどういうことか、会社は何のためにあるのか。初めての挫折をきっかけに、武井氏は経営の勉強を始めることになる。その中で、ブラジルのセムコ、アメリカのパタゴニア、日本のメガネ21といった会社の実践が心に響いた。
「俺がやりたいことはこれだ、と思いました。お客さん、一緒に働く仲間、家族、株主、パートナー企業、地域、国…ステークホルダーすべてに責任を果たさなくてはいけない。関わるみんなが幸せになれる会社をつくりたいと思って立ち上げたのが、ダイヤモンドメディアです。」その中で浮かび上がってきたのが、「ホラクラシー経営」だった。
成果主義ではなく徹底した実力主義


ホラクラシー経営で必要なのはまず、「やりたいからやる」という仕組みをいかにつくるかということである、と武井氏は言う。内発的動機づけを志向し、お金や肩書きといった外発的動機づけを発生させない仕組みだ。現在、ダイヤモンドメディア社では、毎年七月に、社長と役員の選挙を行っている。
「成果主義ではなく、徹底した実力主義を取っています。出来る奴がやる、ということです。出来ない奴に意思決定の権力を持たせてもできない。無理をして取り繕おうとする。そうさせない仕組みをつくることが会社として必要なんです。」実力主義を徹底するために、選挙の際には立候補制も取っていない。

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「球体」の情報伝達

「ホラクラシー」とは、「部分は全体であり、全体は部分である」性質を表す「ホロン」という物理学用語を元とした造語である。一方で、会社はそもそも所有権と経営権と労働の三権が分立している。それらを「部分として」ではなく、「ひとつとして扱う」とは、どういうことなのだろうか。
武井氏は、その鍵が「情報の共有」にあるとする。「情報の伝達形式に合わせて組織はつくられます。情報伝達の技術に乏しい環境下ではヒエラルキーがベストだった。でも今はITが発達している。多対多のコミュニケーションができるようになっている今、ヒエラルキー型の命令系統を使う必要はない。すると、情報伝達が球体のような形になる。ヒエラルキー型は限界にきていると思いますね。」
「みんなで決める給与」のつくりかた

現在同社では、情報共有の仕方を体系化している。そのうちのひとつ、給与についての仕組みを見てみよう。
「給与を話し合って決めるといっても、話し合ってラフに決めるのではありません。合理性に基づいて自然と決まっていきます。」(武井氏)
労働時間から、プロセス、結果に至るまで全てをデータ化し、誰もが見られるようになっている。こうした客観的、定量的データをもとにオープンに話をしていると、その人の「戦闘力」がわかると武井氏は言う。これを会社では重要視し、「実力給」としてウエイトを組んでいる。そこでは、会社に対してどれだけ価値を発揮したかという一点のみが評価される。
能力差はあって当たり前


武井氏の言葉の中には、たびたび「出来る奴」「出来ない奴」という言葉が登場する。実力主義という言葉のもとに、「出来ない奴」のモチベーションはどうなるのだろうか。
「能力差はあって当たり前。それによって、えらいかえらくないか、という感覚は社内にはありません。サークルや部活のような雰囲気です。給与の差はしっかりつけますが、給与の問題の多くは、金額の多寡ではない。」
重要なのはその人の価値に見合った給与かどうか、ということだと武井氏は強調する。自分の労働の価値がデータ化され、それを元に周囲からの客観的な評価を受ける。徹底して見える化された自分の実力を目の当たりにし、それが自分の描いていたものと違ったとき、その人は謙虚に自分を見つめ直すことになる。メンタリティは健全です、と武井氏は続けた。

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それぞれのホラクラシー経営

最後に質疑応答の時間が設けられ、会場からは「IT企業だからこそこれらのデータを揃えることができるのではないか」という質問が寄せられた。武井氏は、「人の行動についてのマネジメントは普遍的に必要だと考え、手間をかけている。ただ業態によって、その粒度は変わってくると思います」と答え、更にCCCパートナーの村中が「ITがない中でもどのように工夫してやっていくか、その営みそのものがホラクラシーなのではないか。各企業、各生命体ごとに様々な形であっていい」とまとめた。
武井浩三(たけい こうぞう)

ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 共同創業者。21世紀型の経営スタイルを実践。”人間性経営”、”フロー経営”、”非管理型経営”、”奇跡の経営”、”ホラクラシー型組織”などと呼ばれる。ホラクラシーという言葉が生まれる以前より、ホラクラシー型の経営を実践し続け、ホラクラシー経営の日本第一人者として講演や組織支援なども。