【第三の道】お金との関係性に観る豊かさの本質とは ~ 自分も周りも満たされて生きる道へ 〜 二子 渉 x 由佐 美加子

二子さんと由佐さんが、「お金」に関心をもった理由

今回の対談者である二子さん、由佐さんがお金に関心を持つようになったのはなぜだったのか。二子さんの場合、それは危機的な状況にある地球環境を改善していくためだった。いまの現代社会ではお金は血液のように社会の中を回っている。それならば、その流れをより良いものに変えていけば、社会構造を変えていくことができるのではないか。志があって、お金をきちんと回せる人が増えていけばそれはきっと起こすことができる。そう確信して、二子さんは活動を始めた。

由佐さんの場合は、もっと内面の探求からお金に関心を持っていった。「自分はなにかが足りない、欠けている」という自己認識から必死で働き、お金を稼ぎ、人から頼られるようになっていった由佐さんだが、その心は逆にどんどん疲弊していった。頑張っても頑張っても、まだ足らないと思い続けてしまう自分。終わらないその欠落感に疲れ、会社を辞めようとすると、恐怖が絶え間なく押し寄せてくる。「いまの仕事を手放したら、お金を稼げなくなってしまうのではないか」「組織から出たら誰からも必要とされなくなるのではないか」。そういった内なる不安の声が、頭の中をこだまし続ける。これではとても辞められない。そう思った由佐さんは、その恐怖の正体を突き止めていくため、一つひとつの恐怖に向き合っていった。そうすると、その恐怖と「お金」がびったりとくっ付いていることが分かったと言う。当時の由佐さんにとって、仕事を辞めて収入を失うということは、自分に価値がなくなるということと同義であった。恐怖は常に付きまとったが、最悪誰かかが助けてくれるだろうと信じて、会社を辞めることにした。

 

心が乾いていくということ

自分の内側に繋がらずに、外の基準ばかりに合わせて徒労感や虚無感に襲われるという経験は、二子さんもしている。中学生の頃、地球環境の問題に関心を持ち、太陽光発電の研究をすることを志した二子さんは、その後その分野でドクターまで取得した。傍から見ればやりたいことをやって、自分の進路を進んでいる様に見える二子さんであったが、本人の心は満たされず、「砂漠でカラカラに乾いた骨」のような状態であったと言う。そして、自分が本当に幸せを感じる瞬間を探求し、心理カウンセラーの道に入っていった。

二子さんは心がカラカラに乾いていた時のことを振り返り、太陽光発電の研究をしていた時は、「こうすることが良いことだ」「こうすれば他人に必要とされる自分でいられる」という心理状態で研究に取り組んでいたと話す。そして「やりたいこと」というのは、そのような外側の基準にあるものではなく、もっと全身の実感であり、心が震える瞬間があることだと言う。

由佐さんは、「ちゃんと仕事をしているから、自分の人生これでいいはずだ」など、自分の外部の要因で自分を満たすことができると、人は思い込まされていると言う。ちゃんと仕事をしていて満たされている場合も、そしてそうでない場合も当然ある。それを選んだ当時はそれで満たされていた場合でも、時とともに移り変わる自分の状態によって、いまこの瞬間では満たされてなくなっているかもしれない。

自分の内側を満たすために大切なことは、自分がいま感じている気持ちに正直になること。それはいま求めていることに耳を澄ませ、そして満たされていない自分を認めてあげることでもある。いまの自分の状態に少しでも違和感を感じたら、その気持ちに正直になり、「もしかしたら自分は違うことを選びたいのもしれない」というシグナルとして受け取ることが大切である。それを受け取った上で、別の道に進むか、同じことを続けるかの選択は個々人に委ねられているが、その違和感を無視し、ときに感じないようにすることで心が渇いていってしまうことになると、由佐さんは話す。

二子3

お金を受け取るということ
自分の仕事に値をつけるということ

それでは、内側の幸せに繋がった二人は、いまお金をどう捉え、どのように関わっているのだろうか。 
二子さんは、心理カウンセラーとして働く中で、お金を受け取ることに罪悪感を覚え、 相手が支払おうとしているのに関わらず、拒んでしまうことがあったと言う。しかし、相手が渡そうとしているお金は、その人の感謝の気持ちであることに気付き、相手のその気持ちをきちんと受け取るようになっていった。そして、そのような受け止め方をすると、自分からも「ありがたいな」という気持ちが溢れてくるようになり、次はできるだけいいものを提供したくなる。それが豊かさの循環の最小単位だと思う様になったと話す。

由佐さんは「自分の仕事にいくらの値をつけるか」という問題に対して、自分が満足できる金額を相手に伝え、そして相手との関係で決まった値を、自分の価値とは切り離して考えることが大切であると考える様になった。

自分の仕事の値段を決める時、自分がその仕事をやっていて、「幸せだ」と思うだけの対価を相手に伝える。そこに罪悪感や、相場より高いなどの意識は必要なく、「私が誇りを持ってやれるのは、この金額なんです」と伝えることが大切であると言う。自分が一万円の価値があると思うにも関わらず、 相手の言う様に六百円で耐えるというのは、自分に対する暴力性だと考え、自分をきちんとと大事にでき、そして次に繋げていけるだけのお金の流れになっているかどうかが重要になると考える。そして自分が提示した金額を仮に相手が払えなかったとしても、それは相手が置かれている事情で払えないのであって、自分の仕事にその価値がないからということにはならない。それが自分の価値とお金を切り離すことであると言う。

 

「豊かだ、すでに」という世界に生きる

自分の価値を相対化せず、卑下せず、お金と関わるために必要なこと。それは自分の内側が「満たされている」状態にいることだ。二人の話題は、再び「心の充足」というテーマに戻っていった。

由佐さんは言う。外側に何かを持っているから豊かなわけではない。本当の豊かさはそこにはなく、内側の自分に繋がり、生かされていることに繋がり、人に繋がった時に感じるものであると。そして、二子さんも続く。空を見ることで、胸いっぱいに空気を吸うことで受け取れる豊かさがある。私たちが受け取れる実感値としての豊かさは無限にあると。

なぜ、これだけ実り豊かな地球上で貧困が起こるのか。それは間違いなく人類が生み出したもの。自分の内側にあるものは、外側にあるもの全てを表しているならば、人類の内側に潜む内的貧困こそが、貧困を生み出す正体である。私たちにできることは、自分の中に潜む分断、恐れ、欠落感をそれがあってもいいと自分の内に統合していくこと。そして、なにを治しても治らない状態まで陥ってしまっているこの社会状況の中で最後のチャンスとなるのは、人が本当に充足しているところから、「豊かだ、すでに」という世界から生きていくこと。一人ひとりが、本当になにが自分の幸せだろうということを真に追求していけば、人と人との関係は調和していくはず。そこにこそ、人が真に豊かに生きていく鍵がある。

二子 渉(ふたこ わたる)
経営コンサルタント
日本プロセスワーク協会理事
「風使いの小屋」主宰

経営コンサルタントおよびカウンセラーとして講演やセッションで全国を飛び回り活躍中。プロセス指向心理学の一分野である「コーマワーク」を医師やボランティアチームで研究実践する日本屈指のプロセスワーク実践家。 その傍ら、ライフワークとして地球の仕組みと調和しながら生きていくことを教えてくれるインディアン(アメリカ先住民)の智恵を伝える。森の中でのワークショップを開催している。